禁煙の記/参禅体験記
健康目的での参禅
参禅とは文字どおり「禅に参ずる」つまり、坐禅をすることです。始めに断っておきますが私は、禅宗・坐禅を布教するつもりもありません。呼吸法で精神修養(脂肪腹をひっこめること、禁煙したいなど健康目的で参禅を体験しました。
私は、学校や近所の悪ガキの大将で(ずーッと大将の地位を維持してきました)、小学3年生のときからタバコを買って吸っていました。昭和29年当時、店頭でタバコは1本ずつバラで売っており、ピース・ひかり・しんせいなどは1本50銭から2円だったと思います。50銭硬貨や札を使っていました(ちなみに50銭2枚で1円です(笑))。
タバコをやめたい
「タバコを止めたい」と何歳のころ意識したのか覚えていませんが、何度か禁煙しては挫折し、それまでに何十回禁煙を誓い、40歳代以降は毎日吸うたびに禁煙したいと切に願望し続け、反面どうせ止められない意志の弱い自分を知っているので「ま、いいか・・好きなタバコで死んでも本望だ・・」などと自棄になったり・・その繰り返しの愛煙家でした。
50歳のとき、お世話になっている44歳の弁護士さんに、「渡辺さん、少し疲れたから俗事からはなれたい。どこか数日間山こもりできるような所さがしてくれない?」と、同行を依頼されたので、早速書店にてそのような目的の場所が掲載されている雑誌等を探したまたま手にした「大法輪」という仏教系の雑誌が、定期的に座禅会を行っている全国のお寺の案内特集を組んでいました。
世俗を離れての精神修行(福井県 曹洞宗大本山・永平寺)
これだ!と買い求め、生意気にもNHKの行く年来る年の番組に必ず放映される福井県永平寺町の曹洞宗大本山・永平寺に電話を入れました。永平寺総務院につながり、参禅したい旨つげると、修行僧と思われるはきはきした、透き通った若い声が応答してくれました。
「上山(じょうざん)の目的は何ですか?」「はい・・世間から離れたところで生活をしてみたくて・・」「世俗を離れて、精神修養をしたいのですね」。参禅の心得がパスしたらしく、夏季の一般者の日程や所持品、注意事項などの説明がよどみなく続く。
参加は単身のみ
日程は、5泊6日(全国の曹洞宗の参禅会はこれが規定)で、所持品の中に健康保険持参とあるので、その意味を尋ねると「修行中に体調を崩して病院に運ばれる人もいますので、健康に自信のない方はご遠慮ください」とこともなげな説明に内心、寒気を感じつつ、「では、同行者と相談してから決めます・・・」と逃げると、「同行者との上山は禁止です」私「・・・なぜですか・・」。
修行僧「一人脱落したり脱走したりすると、他の同行者が修行を中断しなければならなくなりますから・・よって単身で参加してください」。私「わ、わかりました今回の参加は見送りますので」。冷や汗をかきながら電話を切ってホットしました。一切の妥協を許さない、しかも不快感を抱かせない修行僧の対応に、爽快感が残りました。
ひょうひょうとした話し方の住職さん(千葉県鴨川市 竜泉寺)
次に、掛けたところが千葉県鴨川市にある「竜泉寺」。対応した住職さんは、威厳ぶらずむしろひょうひょうとした話し方で(八百屋のおじさんのような感じ)、軽妙な話しぶりに引っかかりここに決定。
しかし、参禅してみると軽妙さの中に、これまた一切の妥協を許さぬ厳格な御老師であり5泊6日の修行中は午前4時の「振鈴」(しんれい・古参の修行者が鈴を振って起床を知らせるる)から、午後9時の「開枕」(かいちん・就寝)まで、少しでも作法を間違えると罵声・怒声が飛ぶのでした。
道場における1日の時間割を書いてみます。坐禅に興味のある方は目をとうしてみてください。はっきり言って厳しいです。
最近、日曜坐禅会や退勤後の時間を利用した坐禅会などの案内を目にします(それはそれで得るものがあり、いいと思いますが)、ここ竜泉寺の御老師は一緒に参加した弁護士さんは、帰路「もうこりごり、二度と行かない」と音を上げてしまいました。大接心会(一般に言う座禅会のこと)時間割 (カッコ内は筆者)
| 午前4時 | 振鈴・洗面・体操 |
| 4時30分 |
止静・二?(にちゅう)・独参(どくさん) |
| 6時 | 朝課(ちょうか・読経のこと)・内外清掃 |
| 7時 | 粥座 (しゅくざ・朝食のこと)・ 隨座 |
| 8時10分 | 抽解鐘 |
| 8時20分 | 止静・行梅湯 |
| 8時30分 | 提唱・経行 二?・独参 |
| 11時 | 斎座・隨座 |
| 午後 1時 | 経行 |
| 1時20分 | 止静・行茶 三?・独参 |
| 4時 | 晩課 |
| 4時30分 | 薬石・隨座 |
| 6時 | 経行 |
| 6時30分 | 止静・三?・独参 |
| 8時50分 | 四句誓願文 |
| 9時 | 開枕 |
以上 無言 (振鈴から開枕まで5泊6日無言で通します)
きめ細やかな作法
起床から就寝まで17時間のうち10?(450分・7時間半)壁に向かって坐禅していることになります。食事作法も厳格を極め、老師を中心に折りたたみ式のテーブルを コ の字に並べて正座ですわり四鉢重ねて納まっている木製漆塗りの食器をテーブルに大きい順に右から並べておき、古参の修行者が給仕してくれるご飯・汁・副食の順に両手を持って器に受け、約40分の食事中はもちろん無言であり、くちゃくちゃ音を出して食べることも厳禁です(沢庵も必ず出るのですが、ぽりぽり音を出す人はいません。たぶん丸呑みしているのでしょう)。
このほかに、きめ細かな作法があり、接心会の行事で、一番つらいと感じたのは朝・昼・晩のこの食事修行でした。竜泉寺では5月、8月、12月の年3回接心会が行われ、1回の参禅者は20名~25名くらいで関東圏の人が主ですが、北海道東北、近畿圏の人も見受けられます。30歳代や中高年のサラリーマン、が主力で主婦やOLの人も2~3名参加するときもあります。1?45分の長い時間参加者は何を考えて坐禅しているのでしょうか?
悟りを得るため坐禅
何回か参禅してみてだんだん分かってきました。坐禅の目的は悟りを得るためなのです(これは邪道で、坐禅そのものが悟りという説もあるのですが難しいことはさておき)新参者はただひたすら悟りを得るため坐り続けます。ただ1回の参加で「見性・けんしょう(小悟・小さなさとり)を得る人もいます。私のような、怠け者は10数年坐禅を続けても(途中挫折・休眠のほうが多いのですが)悟れないものもいます。
前述した「独参」のとき老師と対面して坐禅中に体験した「心的現象」を述べて、詳細に老師の点検をうけ、その結果老師から「見性・小悟した」と認可を得るのです。具体的に「悟り」とはどういうものかは誰も口外しません。
45分間の過ごし方(数息観)
新参者は無念無想で坐っているのか?それは出来ません。45分間の過ごし方はこうです。「数息観」といって、ゆっくり吐く息・吸う息を一つ、として二つ、三つ、・・・十まで数えたら一つから繰り返す方法。「無字の公案」といって、「無」について追求する。具体的には「む~」「む~」「む~」と観念する方法や、む~、と大声を発し続ける方法もあり(この発声だけは許されている)ます。
それで無念無想になれるかと言うととんでもない話で、世俗の雑念妄想にとりつかれ、雑念と格闘しているうちに45分が経過してしまうのが実態です。ちなみに、「見性」を何度もしている古参の修行者(サラリーマンなどの参禅者)は同じ堂内で壁に向かって同じ時間坐禅しているのですが、この人たちは老師から与えられた「公案」(壁巌録などの禅問答)を出され、それを一生懸命解いているのでした。
公案を解けたことを「透過した」といい、一つの公案を解くのに1年かかっても透過できない人もいるらしいです。接心会最終日6日目の午後から、茶話会がありこのとき初めて私語が許され、参禅者それぞれが自己紹介や体験談などを順番に話し始めます。
もう少し世俗の酒色に浸っていたいので・・・
「茨城日立から参加しました渡辺です。今回も悟りは得られませんでした・・不謹慎な言い方ですが、私としては余り早く悟ると修行の戒律を守る自信がないので(注・実際に戒律などはありません)もう少し世俗の酒色に浸っていたいので、悟らなくて良かったと考えています・・毎回同じ言い訳をして10年たってしまいましたが・・・」といって爆笑されるなか再開を誓ってめいめいが、電車や飛行機の時間に合わせて竜泉寺を後にするのでした。
初回の参加のとき(50歳)、同行の弁護士さんは、帰路車に乗ると真っ先にタバコをすい始めましたが、私は内心(タバコを止めるため、あんなつらい修行を耐えたのだから・こんごあんな修行に耐えられそうもないからこれを期に止めよう)と誓い、ついに禁煙に成功しました。
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